地方創生や町おこしでは、海外の成功事例がよく紹介されます。
小さな町が世界的に話題になった。
ユニークな観光PRで注目を集めた。
地域の文化や風景を、ブランドとして育てることに成功した。
こうした事例は参考になります。
ただし、成功例をそのまま別の地域で再現するのは簡単ではありません。予算規模、文化的背景、観光資源、言語、タイミング、メディア環境が違うからです。
一方で、失敗例には国や文化を越えて共通する落とし穴があります。
- 住民の感覚とズレている。
- 地名や文化を、広告のネタとして軽く扱ってしまう。
- 地域らしさを出そうとして、ターゲット市場での受け取られ方を見落とす。
- 外向けのコピーが、地域の人には違う意味に見えてしまう。
- 地域モチーフを入れただけで、長く使えるデザインやコンテンツになっていない。
この記事では、海外の自治体・観光組織・地域プロモーションの事例をもとに、地方創生・町おこし・観光PRで注意したいポイントを整理します。
地域の魅力を外に伝えるには、単に目立つアイデアを出すだけでは不十分です。地域の人が納得でき、外の人にも伝わり、継続的に使える形に整えることが重要です。
成功例より、失敗例から学べること
成功事例は、結果だけを見ると華やかです。
しかし、その地域にしかない資源、その時代の空気、偶然の拡散、既存の観光ブランド、広告予算などが組み合わさっている場合も多く、別の地域が同じ方法を真似しても、同じ成果が出るとは限りません。
一方で、失敗例には共通点があります。
地域の名前を面白く見せようとして、地元の人から反発される。
地元では自然な言葉でも、外部の市場では不適切に受け取られる。
観光客向けの明るいコピーが、住民には現実を軽く扱っているように見える。
地域モチーフを詰め込んだものの、デザインや活用方法が弱く、結果的に批判される。
こうした失敗は、国や文化が違っても起こります。
だからこそ、地方創生や町おこしを考えるときには、「成功例を真似る」だけでなく、「失敗例から何を避けるべきか」を学ぶことが大切です。
1. 地名をいじるだけでは、地域の魅力は伝わらない
スコットランド・エディンバラの言葉遊び型キャンペーン
スコットランドのエディンバラでは、冬の観光プロモーションにおいて、都市名の「Edinburgh」と別の言葉を組み合わせた表現が使われました。
たとえば、
- 「Incredible」と「Edinburgh」をかけたような “Incredinburgh”。
- 「paint the town red」と「Edinburgh」を合わせた “paint the town redinburgh”。
- 「shop here instead」と「Edinburgh」を組み合わせた “shop here insteadinburgh”。
狙いは分かります。
地名を使った言葉遊びは覚えやすく、SNSでも広がりやすい。観光客に向けて、少し軽やかで親しみやすい印象を作ることもできます。
しかし、歴史や文化への誇りが強い都市では、こうした表現が「安っぽい」「無理がある」「街の品位に合わない」と受け取られることがあります。
地域名は、単なる広告素材ではありません。
そこに住む人にとっては、自分たちの暮らし、歴史、誇りと結びついた名前です。外向けに目立つことだけを考えて、地域の人が恥ずかしいと感じる表現にしてしまうと、PR以前に内側から支持されません。
改善すべき点
地名や方言を使うこと自体が悪いわけではありません。
問題は、それが地域の魅力を深めているのか、単に言葉遊びとして消費しているだけなのかです。
企画段階では、次のような確認が必要です。
- 地元の人がその表現を見て、誇れるか。
- 少なくとも、恥ずかしいと感じないか。
- 地域名や方言を、単なるネタとして扱っていないか。
- 観光客にとって、意味が伝わる表現になっているか。
- 長く使っても古びにくい言葉か。
町おこしのコピーやキャラクター名は、外に向けた看板であると同時に、地域の人自身が使い続ける言葉でもあります。
地元の人が使いたくないコピー、共有したくないロゴ、紹介したくないキャラクターは、長く育ちません。
2. 地域らしさは、ターゲット市場でどう受け取られるかまで確認する
オーストラリア観光キャンペーン「So where the bloody hell are you?」
オーストラリア観光局は、2006年に「So where the bloody hell are you?」という観光キャンペーンを展開しました。
オーストラリアらしいカジュアルさ、親しみやすさ、少し挑発的なユーモアを前面に出したコピーです。
狙いは明確でした。
堅苦しい観光地ではなく、気さくで開放的な国としてオーストラリアを印象づける。現地の日常的な言葉づかいを使うことで、他国との差別化を図る。
しかし、このコピーは一部の国や媒体で問題視されました。特に「bloody hell」という表現が、国やメディアの基準によっては不適切と判断され、放送や展開に制限がかかりました。
ここで起きたのは、地域の内側では「らしさ」として成立する表現が、外側では同じように受け取られないというズレです。
町おこしや観光PRでも同じことが起こります。
方言、冗談、地域のノリ、祭りの掛け声、食文化、歴史的なモチーフ。地域の内側では親しまれている表現でも、外の人には伝わりにくかったり、不快に見えたり、誤解されたりすることがあります。
改善すべき点
地域らしさを打ち出すときは、ターゲット側の受け取り方を確認する必要があります。
- 地元では普通の言葉でも、外ではどう聞こえるか。
- 海外向けに翻訳したときに、意味が変わらないか。
- 若者向け、企業向け、観光客向けで、同じ表現が通用するか。
- 媒体の掲載基準や広告審査に引っかからないか。
- 面白さより先に、不快感や誤解を生まないか。
地域らしさは、内輪のノリをそのまま外に出すことではありません。
地域の魅力を保ちながら、相手に伝わる形へ編集することが重要です。
3. 外向けの言葉は、地域の人にも読まれる
ニュージーランド「Everyone Must Go!」
ニュージーランドでは、オーストラリアからの観光客誘致を目的に「Everyone Must Go!」という観光キャンペーンが展開されました。
観光客に向けて「みんなニュージーランドへ行こう」と呼びかける意図だったと考えられます。
しかし、このコピーは一部で「閉店セールのようだ」「国民に出て行けと言っているように見える」と受け取られ、批判や揶揄を招きました。
背景には、国内の雇用不安や国外移住の増加といった社会状況もありました。観光客向けには軽い呼びかけのつもりでも、国内の人々が見ると別の意味に読めてしまったのです。
これは、自治体や地域企業のPRでも非常に重要な教訓です。
地域PRは、外の人に向けた発信であると同時に、地域の人にも見られる発信です。
- 観光客に来てほしい。
- 移住者を増やしたい。
- 若者に関心を持ってほしい。
- 企業誘致を進めたい。
こうした外向けのメッセージも、地域住民、地元企業、既存の働き手、若い世代に届きます。外に向けて明るく見せようとした言葉が、内側の人には「現実を見ていない」「自分たちの状況を軽く扱っている」と受け取られることがあります。
改善すべき点
スローガンやコピーを作るときは、ターゲットだけでなく、地域の人が読んだときの印象も確認する必要があります。
- 観光客向けの言葉が、住民にどう見えるか。
- 移住促進の言葉が、地元の若者にどう響くか。
- 企業誘致の言葉が、既存の地元企業を軽く扱っていないか。
- 「外に見せたい姿」と「地域の実感」が離れすぎていないか。
- 地域の課題を、明るいコピーで覆い隠していないか。
外向けに目立つだけではなく、内側の人が納得できることが、長く使える地域ブランドの条件です。
4. 地域モチーフを入れるだけでは、町おこしの資産にはならない
マレーシア「Visit Malaysia 2020」ロゴ
マレーシアの観光キャンペーン「Visit Malaysia 2020」では、オランウータンやカメ、ペトロナスツインタワーなど、国を連想させるモチーフを使ったロゴが発表されました。
地域らしい要素を入れるという意味では、方向性自体は分かりやすいものです。
しかし、このロゴは公開後、デザインが古い、洗練されていない、観光キャンペーンの顔としてふさわしくない、といった批判を受けました。
ここで重要なのは、地域モチーフを入れたからといって、それだけで良い地域ブランドや町おこしの資産になるわけではないという点です。
ご当地キャラクターや観光ロゴでも、同じ失敗は起こります。
- 名物を持たせる。
- 山や川を入れる。
- 特産品を頭に乗せる。
- 方言をしゃべらせる。
- 歴史上の人物をモチーフにする。
こうした要素を足していけば地域らしく見える、という発想は危険です。
地域らしさは、モチーフの数ではなく、設計で伝わります。
改善すべき点
キャラクターやロゴ、地域コンテンツを作るときは、何を入れるかだけでなく、どう使われるかを考える必要があります。
- 小さなスマホ画面でも見やすいか。
- SNSアイコンやバナーで使えるか。
- マンガ、動画、イベント、商品、資料に展開できるか。
- 地域の人が自分たちのものとして使いやすいか。
- 時間が経っても古く見えすぎないか。
町おこしのコンテンツは、地域モチーフの寄せ集めではありません。
地域資源を整理し、伝える相手を決め、長く使える形に編集することで、初めて資産になります。
地方創生・町おこしで確認したいポイント
海外の失敗例を見ると、地域PRで確認すべきポイントが見えてきます。
企画を進める前に、少なくとも次の点は確認しておきたいところです。
- 地名や方言を、単なる言葉遊びとして使っていないか
- 地元の人が見ても違和感のない表現になっているか
- 地域の歴史や文化を軽く扱っていないか
- ターゲット市場で、言葉や表現がどう受け取られるか確認しているか
- 外向けのコピーが、地域住民を傷つけたり置き去りにしたりしていないか
- 地域モチーフを詰め込むだけでなく、使い方まで設計されているか
- 一度作って終わりではなく、SNS、Web、イベント、商品、採用広報などへ展開できるか
- 目立つことと、信頼されることのバランスが取れているか
町おこしは、奇抜なアイデアを出すことだけではありません。
むしろ大切なのは、地域の魅力を壊さず、誤解されない形で、外の人にも伝わるように整えることです。
地方の魅力をどう切り取り、その時代の価値観に照らし合わせて創出するか
地方の魅力は、ただ存在しているだけで自然に伝わるものではありません。どこを切り取り、どの時代の価値観と結びつけ、誰に向けて意味を持たせるかによって、新しい価値として創出されます。
大切なのは、それぞれの地方独特の魅力をどう切り取り、誰に向けて、どの言葉やビジュアルで伝えるかの設計です。
キャラクターやロゴ、コピー、動画を作ること自体が目的になってしまわないよう、地域にある文化、風景、人、産業、物語を、地域の人が誇れ、外の人にも伝わり、長く使える形に編集することです。
成功例を真似するよりも、失敗例から落とし穴を学ぶ。
それは、自治体や企業が地域PRを考えるうえで、非常に実務的な第一歩になります。
地域IP共創スタジオでは、地域資源をキャラクター、マンガ、SNS、Web、イベント、若者共創企画などへ展開できるコンテンツ資産として整理し、地域や企業の発信に活かす方法を考えています。
ここでいうIPとは、インターネット上のIPアドレスではなく、地域の文化・物語・キャラクター・ロゴ・映像・言葉など、地域の魅力を継続的に伝えるためのコンテンツ資産を指します。
地域の魅力をどう伝えればよいか、キャラクターやコンテンツを作って終わりにしないために何を設計すべきか。そうした課題がある場合は、まずは現在の地域資源や発信内容を整理するところからご相談いただけます。
ご相談ください
地域や企業の魅力を、伝わる企画へ。
地域PR、観光PR、採用広報、キャラクター活用、若者との共創企画など、まだ企画がまとまっていない段階でも大丈夫です。
地域や企業の魅力が、今どう見えているか。一緒に整理するところから始めます。